黒い砂④

 オレ達は見ていた。つい先ほど通り過ぎた後方を。電燈と電燈の狭間、狭くも深きその闇に明く一つの光を。四角に区切られた、目に見えぬ者と対話する閉鎖的空間を。今、その中央に鎮座している緑色した電話機が人を呼んでいる。呼ぶはずのないモノが、呼んでいる。


  よせ、行くな

 今日何度目かの諫め口。しかし、ヤツの耳には入らない。引けた腰を引きずるようにヤツは電話ボックスへと足を向ける。耳を劈くようなベルの音が静かな国道に響く。

ジリジリジリ…、ジリジリジリ…

 ヤツの右手がボックスのドアを押す。ベルの音が心なしか大きくなる。油を差していないのだろう、きぃ、とドアの開くに合わせてかすかなノイズが耳に届く。落ちていた黄色鮮やかな電話帳、つま先が当たり一瞬たじろぐ。顔を再び正面の公衆電話に向け、おずおずと手を伸べ…

  …っ!

 国道を西行する風砂、瞬間視界が閉ざされる。カサカサと砂粒の擦れ合う音が遠ざかり…


  リィン……

 ヤツはもう何処にもいなかった。眼前のボックスでは受話器が振り子の真似事をしていた。